工事現場のDX化にNessumが貢献!竹中工務店「TSUNAGATE」コラボ対談

今回は、施工現場のデジタル化・IoT化に取り組んでいる、株式会社竹中工務店からTSUNAGATE開発担当の西野高明さんをゲストにお招きして、建設領域における通信の課題やNessumの活かしどころについて、パナソニックホールディングス株式会社 Nessumプロジェクト プロジェクト長の古賀久雄さんとともにお話を伺っていきます。
※本記事は、2025年11月23日に実施された「建築 × 通信 トークイベント-光・風・情報 『窓』 から始める通信のデザイン」にて行われた対談をもとに作成されたものです。
建設現場のDX化に避けては通れない課題とは?
今や建設業界でのDX(デジタル・トランスフォーメーション)化は急速に進展しつつあります。デジタル技術が業界の課題を解決するうえで重要なカギになると言われている一方で、その基盤技術としての通信インフラには、まだまだ大きな問題点が残っていると西野さんは語ります。
(西野さん)
近年の建設業界では、現場作業の高度化・複雑化や労働力不足が著しく、施工の生産性を少しでも向上させていく必要があると言われています。そういった中で、建設現場のデジタル化に関する技術は今大きく注目されています。例えば建設ロボットやドローンなどを使えば、作業員をサポートして施工業務を半自動化できたり、人が入りづらいような場所での作業・監視が簡単になったりします。また、作業員が装着するヘルメットなどにウェアラブル端末をつけて、位置情報や体温、心拍数などを計測・管理することができれば、安全管理や健康管理にもつながるでしょう。さらには、図面や資材、現場の状況といった膨大なデータをBIM(Building Information Modeling)で一元管理したり、モバイル端末で確認しながら施工を進めたりすること、AR(拡張現実)やMR(複合現実)といった技術を活用していくことなども、夢物語ではなくなってきています。
──デジタル・IoT技術を推し進めて、建設プロジェクトの精度向上や効率化を目指す流れが、今や建設業界全体で急速に進んでいるのですね。
(西野さん)
その通りです。一方でこうしたICTの活用のためには、その基盤技術として安定的な通信インフラが必須になってきます。実際には、建設現場では高層階や地下、コンクリート壁で囲まれた場所など、無線の電波が届きにくい場所がまだまだたくさん存在しており、そうした場所での通信機器やモバイル端末の使用は困難です。こういった背景もあり、とくに高層階や地下などの現場では通信が使えないことが多々ありました。
当社で開発した「TSUNAGATE(ツナゲート)」は、こうした建設現場での通信面の課題を解決し、現場に安定したネットワーク環境を届けるためのシステムです。TSUNAGATEを導入すれば、従来の方法では通信できなかった場所も含めて、広範囲かつ柔軟にネットワークが利用でき、建設現場のデジタル化に貢献します。開発にあたっては、建設現場ならではの様々な障壁をクリアして、通信が困難だった環境でも途切れず通信していくための新たな仕組みが必要でした。Nessumがもつ電力線通信の特徴をうまく活用できたことは、TSUNAGATE誕生のための大きなきっかけになりました。

建設現場の通信インフラ整備はなぜ難しいのか
──建設現場ならではの障壁とは、どのようなものがあったのでしょうか。
(西野さん)
先ほど述べましたように、建設現場は高層階や地下、コンクリート壁で囲まれた場所などが多く、無線の電波が届きにくいのが実情です。さらに工事が進むにつれて、空間そのものが大きく変わっていくという特徴もあります。もともと開放的だった場所が後から遮蔽物で覆われたり、作業の進行に合わせて通信を届けたい場所が変化したりするので、通信が届きにくい部分を常に把握しながら、都度ケーブルを引き回すなどの対策をするのは非常に手間がかかるのです。こうした環境の中で安定的な通信インフラをつくるために、有線LANや無線LAN(メッシュWi-Fi)といった従来の手法を導入しようとしても、それぞれに大きなハードルがあるのが現場の実態ですね。
(古賀さん)
有線LANは通信速度が数100Mbpsから数Gbpsと高いものの、ケーブルの設置には専門業者が必要になり、障害物の多い施工現場では断線リスクも高くなります。一方の無線LAN(メッシュWi-Fi)は手軽に導入できる反面、遮蔽物が多い場所ではやはり電波が届きにくくなるというのが難点です。建設現場という特別な環境では、これらの従来技術を適用するのがどうしても難しいケースが出てくるわけです。
そういった前提の上で、Nessumの電力線通信が使えるのではとお考えになったのですね。
Nessumが登場!仮設電源を用いて通信を実現
(西野さん)
その通りです。Nessumは現場作業のために設置してある仮設の電力線をそのまま利用できるため、設置の手間がほとんどかりません。建設作業を行う場所では仮設電源はほぼ必須ですから、工事の進行や空間の変化で作業場所が変わったとしても、電力線そのものが無くなることはなく、結果として柔軟に通信環境を維持し続けることができます。また、仮設電源の配線は丈夫で断線にも強いため、障害物が多い場所でも安心して使えます。
Nessumが建設現場の環境と相性が良い部分はまだ他にもあります。建物ができた後にずっと使われることになる「本設電源」は、通常複雑で分岐が多いことが多く、Nessumを組み合わせて使う際に注意を要することがあります。ところが工事現場で使う「仮設電源」の場合は、配線の構成は比較的シンプルで、分岐も少ないです。また一時的なものですから、通信の良し悪しを考えて構成を微調整することなどもできます。Nessumのもつ特徴は、どれも私たちの現場で欲しかった機能と非常にマッチしていたのです。
(古賀さん)
Nessumの特性が建設現場で役立つとは、とても興味深いですね。あとは、Nessumの通信速度とどう向き合うか、ということになりますか。
(西野さん)
はい。おっしゃる通り、Nessumの通信速度は数10Mbpsと、有線LANほどは大きくありません。さらにNessumには、ノイズによる速度低下という大きな課題もありました。
Nessumは仮説電源の配線を利用しますので、当然その途中では、分電盤などのさまざまな機器を経由します。ところが分電盤には、漏洩遮断器といった機器類が備わっていたり、建設現場で使われる電動工具や溶接機、送風機といった様々な機器が接続されていたりします。こうした負荷の影響によって、Nessumの信号が妨げられてしまうことがあるのです。
分電盤などからの負荷を伴う配線を用いると、ノイズの影響で信号が伝わりづらくなり、Nessumの通信速度が低下しやすくなります。実際に当社の行った検証では、配線が分電盤を1つ通過すると元の3割、3つ通過すると6割程度も通信速度が低下してしまうことが分かっています。
こうした問題は、より大規模な建物の施工現場になるほど、顕著に現れてくるといえるでしょう。

TSUNAGATEの技術革新とそのインパクト、建設現場をこう変える
(古賀さん)
そこで、御社では、こうした通信速度の低下を防ぐ「フィルター技術」を独自に開発され、施工現場でNessumを用いる際の課題をクリアされたのですね。
(西野さん)
はい。当社ではNessumを活用しつつ、通信速度が落ちてしまわないような独自のフィルター技術を開発して、分電盤などの影響を大幅に低減することができました。フィルター技術というと少し専門的で難しい話になってしまうのですが、本来届けたい信号の範囲から大きく外れるような信号をノイズとして検知し、事前にカットする技術だと考えていただければよいかと思います。
当社が行った実験では、ノイズがあった場合にフィルターが無い時とある時とでは、通信速度が最大で約6倍も向上することが分かりました。
このフィルター技術によって、仮設電源線を活用した安定な通信を実現できるようになりました。従来は通信が難しかったような場所でもネットワーク(無線LAN)環境を構築できれば、建設現場内のさまざまなIoTデバイスをクラウド上で一括管理することが出来ます。私たちはこの技術を、「現場とクラウドを繋ぐゲートウェイ」という意味をこめて「TSUNAGATE(ツナゲート)」と名づけました。
──TSUNAGATE、とてもいいお名前ですね。これまでは通信できなかった部分に通信を入れていくことによって、新たに可能になったことはどんなことがあるのでしょうか。
(西野さん)
TSUNAGATEの導入によって、実際の施工現場では大きな変化が起きています。例えば360°カメラを設置して現場全体を監視し、安全管理や作業の進捗を遠隔から確認する「TSUNAGATE VIEW」を運用できるようになりました。また、温湿度などのセンサー類を活用してリアルタイムでデータを収集・分析し、異常があればすぐ対応するといったことも可能になっています。一方、安定性や工程に追従する柔軟性など、TSUNAGATEには製品としての課題がまだ多くあります。今後も品質を向上させ、建設の生産性向上に貢献していきたいと考えています。
──西野さん、ありがとうございました。建設業におけるNessumのこのような活用は、今後もますます増加していきそうですね。
(古賀さん)
通信技術というのはあくまで手段ですから、用途が見つかれば一気に普及していくし、逆にどんなに優れた技術があっても使いみちがなければ広がりません。今回のTSUNAGATEの事例は、まさに建設現場の切実なニーズとNessumの特性がうまく合致したことで、新しいイノベーションを生み出した好例だと思います。私たちの生活や業務をどう変えたいか、あるいは何を解決したいかという視点を大事にすれば、通信の「心地よさ」を実現できる方法はまだまだ見つかるはずです。建設業界においても、今後ますますNessumをはじめとするさまざまな通信技術が活用されていくことを期待しています。

Profile
古賀久雄(こが・ひさお)
1995年に九州松下電器(当時)入社。HD-PLC(現Nessum)技術の研究開発に従事し、2009年に九州大学大学院博士後期課程を修了、博士(工学)学位を取得。2021年にHD-PLCアライアンス(現Nessumアライアンス)副会長およびPLC-J(高速電力線通信推進協議会)運営委員長に就任。2023年よりパナソニックホールディングス(株) Nessumプロジェクト プロジェクト長を務める。
西野高明(にしの・たかあき)
千葉県出身。電気通信大学電気通信学専攻修了。2015年に(株)竹中工務店 技術研究所に入所し、建設現場における通信環境構築技術、屋内通信環境解析技術の開発に従事。受賞歴に計測自動制御学会 論文賞、建築学会賞(技術)など。
森原正希(もりはら・まさき)
東京生まれ、早稲田大学建築学科卒。大学在学中には国際的なNPO法人での活動やXRスタートアップ、建築設計事務所など建築を起点に領域横断する活動経験を経て、建築都市分野にアントレプレナーシップを育む一般社団法人ASIBAを共同創業。また早稲田大学にて研究業務を担当。WIRED Creative Hack Award 特別賞、グッドデザインニューホープ賞、緑の環境プラン大賞などのクリエイティブアワード等を受賞。