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通信×設備の視点でスマートビルを徹底解剖!アズビルとのコラボ対談

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通信×設備の視点でスマートビルを徹底解剖!アズビルとのコラボ対談

今回は、パナソニックホールディングス株式会社 Nessumプロジェクトの古賀さん・川畑さん、そしてビルオートメーション分野で長年の実績をお持ちのアズビル株式会社から、太宰さん・坂東さんをお招きしてのコラボ対談企画となります。近年、利用者の快適性向上や働き方の多様化が進む一方で、効率化やライフサイクルにおける省エネなど、ビルが解決すべき課題はますます複雑になっています。こうした環境の中で、今後の技術進展やその可能性をどのように捉えているのか、また両社がそれぞれどのような取り組みを進めているのかを専門的な視点から伺い、未来のスマートビル像を探っていきたいと思います。


裏方ではない、ユーザー目線の新たな設備のあり方とは


(森原さん)
まずはアズビルの太宰さん、坂東さんにお伺いします。空調をはじめとする建築設備は、一般にはイメージがつかみにくい側面がありますよね。冷凍機やポンプなどの機器類は普段は部屋から見えない場所で働いていますが、こうした設備を扱うアズビルさんでは、どのような取り組みを行っていらっしゃるのでしょうか。


(太宰さん)
アズビルの主要な事業は「ビルオートメーション」といい、空調や照明などの設備をいかに安定・効率的に動かすかという、設計・制御技術が中心です。ビルの裏方で精密な調整を繰り返し、設定された温度・湿度・風量などを保っています。
しかし近年はそれだけではなく、「人の快適性」や「室内でのアクティビティ」といった、よりユーザーに近い部分にアプローチする重要性が高まっています。たとえば、部屋の温度分布や気流の可視化、利用者が環境を調整しやすくするUI(ユーザーインターフェース)の設計など、いわゆる“部屋側”の技術開発にも力を入れるようになってきています。


Visualization.png

図1:設備機器や部屋の環境を可視化するアプリケーション (アズビル 藤沢テクノセンター)


(坂東さん)
建築設備はエネルギー消費が非常に大きいものの、普段設備の仕組みを知る機会がないためか、多くの人があまり意識していません。そのため、温度設定や運用の工夫次第では大きく省エネできるにもかかわらず、現状では十分に活かされていないことが多いと思います。たとえば、空調の温度設定をほんの1〜2℃動かすだけでもビル全体の消費エネルギーに大きく影響しますが、適切に設定されずにロスが生まれているケースもあるわけです。そこで、ユーザーと設備の間のインターフェースを工夫していけば、ビル運用の仕方自体が大きく変わるのではないかと考えています。



様々な環境要素を組み合わせて多角的にコントロール


(森原さん)
温度設定といえば、通常は「エアコンのリモコンで何度にするか」を決めるくらいしかイメージが湧きませんが、実際にはさらにどんな工夫ができるのでしょうか。


(太宰さん)
一般的な空調システムでは、ユーザーが設定する温度が1つだけなので、暖房と冷房の制御を同じ設定値で兼ねてしまうことがよくあり、省エネのつもりがかえってエネルギー増加の原因になることがあります。例えば、省エネを狙って冬に暖房の温度を低めに設定したとしましょう。部屋によっては内部発熱が大きく、設定値が室温を下回ってしまうことがあり、結果的には暖房だけでなく冷房まで同時に稼働してしまうことで、余計なエネルギーが発生するのです。
これを防ぐために導入したのが、冷房用と暖房用の設定温度を別々に持たせる「二重設定方式(デュアルセットポイント)」です。たとえば「冷房は24℃まで」「暖房は20℃まで」と設定値を分けておき、その間の中立帯では空調を動かさないようにします。こうすることで、無駄な加熱・冷却を抑えることができるのです。


(太宰さん)
しかし、設定値が2つあると利用者には少し難しく感じられます。そこで私たちは、温度の代わりに「暑い」「寒い」といった直感的な入力だけで自動的に最適設定値を調整するアルゴリズムを開発しました。利用者は「暑い」「寒い」という感覚だけを申告し、あとは二重設定方式に基づいてシステムが自動的に最適化する仕組みです。
実はこの方式には大きな利点があります。それは、温熱制御の手段を一気に拡張できるという点です。実際、人が暑い・寒いと感じる要素は温度だけではなく、湿度や気流、放射熱(壁や床の表面温度)などさまざまですので、これらをそれぞれ変えることで快適度を調整できるようになります。
さらに近年の研究では、照明の色温度が温冷感に影響を与えることも明らかになっています。体感温度に合わせて照明を青白くしたりオレンジ色寄りにしたりすれば、心理的な効果で「暑さ」「寒さ」の感覚を和らげることができるかもしれません。


Lighting-color-change.png

図2:照明色変化による心理効果の活用 (アズビル 藤沢テクノセンター)
照明の色を「暑い」「寒い」といったユーザーの感覚に合わせて自動的に調整する技術。オレンジ色や青白い色に変化させることで、空間の温度感覚を心理的に操作し、省エネルギーにも貢献。また、利用者が「システムが自分の要求を反映してくれた」と感じることで、快適性の向上が期待される。



オープンで、フレキシブル。今後のビルに必要な通信インフラ


(森原さん)
「設定値を固定するのではなく、多角的かつ動的にコントロールしていく」という考え方が非常に面白いですね。ここからは、Nessumの古賀さんと川畑さんにもお聞きします。温度センサだけではなく、湿度や気流・放射、さらには利用者の感覚や位置情報といった多様なデータを収集してより高度な制御を行おうとすると、通信もますます重要になりそうですね。


(古賀さん)
ビル内の通信は、かつては「外部とはなるべく繋ぎたくない」という保守的な考え方が主流で、メーカーや系統ごとに独自のプロトコルを使っていました。しかし最近では「積極的にデータを繋いで活用する」方向へシフトしており、IP通信への移行が一気に進んでいます。IP通信にすれば、異なるタイプのセンサや設備機器が共通の通信基盤で繋がり、扱えるデータの量は飛躍的に増大します。

※IP通信...「Internet Protocol(インターネットプロトコル)」を略したもので、インターネットやIoTの基盤として使われる通信。他の通信と比較して広範な用途に柔軟に使用できるため、近年利用が広がっている。


(太宰さん)
データの収集方式に関しても、以前はビルの大規模中央監視システムにすべてのデータを集めるのが一般的でしたが、近年は、センサ単体が直接クラウドやネットワークにデータを送信する事例も増えています。将来的には大規模サーバーをビル内に置かず、クラウドだけで運用する形も見えてくるかもしれません。そうすれば、空調や照明、入退室管理、エレベーターなど多種多様なシステムを一元的に連携しやすくなり、ビル全体の最適制御が可能になるでしょう。


Temperature-Sensor.png

図3:温度センサによる詳細な空調制御 (アズビル 藤沢テクノセンター)
多数の温度センサを設置し、建物内の温度分布を詳細に把握するシステムを導入。センサで得られるデータをもとに、高度かつ効率的な空調制御が可能となる。


(森原さん)
また、最近の建築は耐用年数が100年を超えるとも言われており、建物が長寿命化するにつれて、解体や改修時といったライフサイクルでのコストや環境負荷にも注目が集まっています。 こうした長い目で見たとき、ビル側にはどんな性質が求められるのでしょうか。


(古賀さん)
長期間にわたって使われる建物では、途中で用途が変わったり、新しい設備が導入されたりします。そのためフレキシビリティが非常に重要になります。たとえば、従来のようにメーカー独自の通信プロトコルに依存したシステムだと、改修時に新たな通信システムを導入しようとした場合に物理配線を全部引き直さなくてはならず、コストも廃棄物も増大してしまいます。これに対してIP化されたシステムであれば、採用する機器の選択肢が拡がるため、柔軟性が格段に高いのです。


(川畑さん)
オープン化が進むことによって、改修やメンテナンスの際に、さまざまなメーカーから提供されている機器を組み合わせてシステムを構築できるため、長寿命化を考えるビルオーナーにとっても大きなメリットになるでしょう。


(古賀さん)
とはいえIP通信を実現するうえでは、現状いくつかの課題もあります。IP通信は従来のBACnet MS/TPやModbusといった低速な有線通信と比べて導入のコストが高くなる場合があります。また運用していく中で、通信したい機器の台数が増えたりすると、HUBのポート数が足りなくなり、HUBの交換といった追加の工事が必要になってしまうことが多いです。
その点、NessumはIP通信を実現する際の柔軟性が特に強みです。Nessumでは既にある配線をそのまま活用してIP化できるため、追加の線工事が最小限に抑えられます。また、フリートポロジーでさまざまな配線形態にも対応しており、マルチホップ技術で多台数接続や長距離化も可能となっているため、機器を追加しやすく、通信インフラを柔軟に拡張できます。Nessumのこうした性質が、上記の課題の解決に貢献できる可能性は高いと考えています。

※HUB...ネットワーク機器をつなぐ装置で、IP通信では複数の機器を接続する役割を持つ。ポート数に限りがあるため、機器が増えると交換や増設が必要になることがある。

※フリートポロジー...通信ネットワークの配線方法を柔軟に決められる仕組みのこと。通常、通信機器は特定の決まった配線方法でつなぐ必要があるが、フリートポロジーの場合は建物の構造や既存の配線に合わせて自由に機器をつなげることができる。


(太宰さん)
近年では設備改修など維持管理段階におけるCO2排出量が、ようやくクローズアップされるようになりました。長期の運用にともなってビルの用途や設備はどんどん変化していきますから、通信環境を簡単にアップデートできるこれらの特徴はかなり強みになると思いますね。



通信とハードの側面からビル運用の新時代を切り拓く


(森原さん)
最後に、Nessumの古賀さんとアズビルの太宰さんから、スマートビル分野における今後の取り組みについてお聞かせください。


(古賀さん)
ビル内にさまざまなセンサを導入し、AIでデータを活用するうえで、通信は基盤となる技術です。特にビルシステム全体のIP化が進むことで、データの活用幅や柔軟性が一気に広がるメリットは大きいですね。とはいえ、現状では下位の機器まで完全にIP化されているわけではなく、旧来の通信方式を使っているケースが多数あるのが現状です。これから下位側も含めて徐々にIP化されていく、今がその過渡期にあたると思いますので、そこにNessumで大きく貢献できればと考えています。


(太宰さん)
通信インフラが充実し、計測できるデータの量や種類が格段に増えたことで、ビルの空調や設備を制御する際に使える情報も飛躍的に増加しています。一方で、快適性と省エネを両立するうえで、設備側の制御やサービスのあり方もまだまだ進化の余地があると感じます。今後は、「外気条件や内部負荷にどう対応するか」という従来の観点だけでなく、「人の五感や行動パターンにどう合わせるか」という新しい視点がさらに広がっていくでしょう。私たちも、そうしたユーザー中心の価値創造に挑戦を続けたいと思います。





Profile


古賀久雄(こが・ひさお)
1995年に九州松下電器(当時)入社。HD-PLC(現Nessum)技術の研究開発に従事し、2009年に九州大学大学院博士後期課程を修了、博士(工学)学位を取得。2021年にHD-PLCアライアンス(現Nessumアライアンス)副会長およびPLC-J(高速電力線通信推進協議会)運営委員長に就任。2023年よりパナソニックホールディングス(株) Nessumプロジェクト プロジェクト長を務める。


川畑直弘(かわばた・なおひろ)
2007年に九州大学大学院システム情報科学府修士課程修了、同年パナソニックコミュニケーションズ(株)入社。無線通信機器の技術開発に従事し、2018年よりHD-PLC(現Nessum)のIEEE国際標準化活動に参画。2020年よりHD-PLCアライアンス(現Nessumアライアンス)事務局を兼務。


太宰龍太(だざい・りょうた)
ハワイ・オアフ島出身。2000年に東京工業大学 理学部 応用物理学科を卒業し、2002年に同大学院 総合理工学研究科 環境理工学創造専攻を修了。同年、山武ビルシステム株式会社に入社(同社は、2003年に(株)山武と合併、2012年にアズビル株式会社へ社名変更)。現在は、空調制御技術の企画・開発に従事。


坂東佑介(ばんどう・ゆうすけ)
2007年に株式会社 山武(現アズビル株式会社)入社。工場・プラント向けの温度調節計の開発を行った後、ビル・建物向けの空調制御機器の開発に従事。センサから設定器、コントローラに至るまで幅広く担当し、ワイヤレス機器の開発も手掛ける。


森原正希(もりはら・まさき)
東京生まれ、早稲田大学建築学科卒。大学在学中には国際的なNPO法人での活動やXRスタートアップ、建築設計事務所など建築を起点に領域横断する活動経験を経て、建築都市分野にアントレプレナーシップを育む一般社団法人ASIBAを共同創業。また早稲田大学にて研究業務を担当。WIRED Creative Hack Award 特別賞、グッドデザインニューホープ賞、緑の環境プラン大賞などのクリエイティブアワード等を受賞。


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