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有線IPネットワークの未来を切り拓く─10BASE-T1LとNessumの技術と導入戦略

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Future of Wired IP Network Technology

スマートビル時代に求められる通信基盤とは

ビルオートメーションの高度化が進む中、空調や照明などの設備を安定かつ効率的に運用しながら、快適な空間をつくることが求められています。さらに、運用時の省エネだけではなく、施工や改修時におけるCO2排出も含めた建物のライフサイクル全体でのコストや環境負荷にも注目が集まっています。

このような背景の下、機器の制御で重要な役割を担う通信インフラにおいては、コスト効率の良いソリューションの活用が重要となってきます。

RS485に代表されるレガシーかつ非IPの通信方式が未だに多くの現場で使用されている中、扱うデータ量の増加に伴う通信速度の向上や機器のマルチベンダー化に対応するためのネットワークのIP化は不可欠です。また、そのような通信回線のアップデートを行う際に、CO2排出量の削減だけではなく人手不足の解消や現場作業の負担軽減のためにも、施工や改修時の配線工事を短工期・低コストで実施できることも重要なファクターの一つとなります。

本記事では、次世代の有線通信技術として注目を集めている「10BASE-T1L」と「Nessum」に焦点を当て、既設の通信環境を活用する観点から、産業用ネットワークへの貢献について解説します。




長距離Ethernetの新潮流―10BASE-T1L

10BASE-T1Lとは

10BASE-T1Lは、次世代の産業用Ethernet技術であるSingle Pair Ethernet(SPE)の一種です[1][2]。技術仕様はIEEE 802.3cgにおいて定義されており、1対のツイストペアケーブルで最大距離1,000mの伝送を可能とする、SPE規格の中で最も長距離をカバーする方式です。このような長距離においても10Mbpsの通信速度をカバーしており、従来のシリアル通信(9.6kbps)の約1,000倍の高速化が可能です。

また、Power over Data Line(PoDL)により、最大で約50W(距離に応じて変動)のDC給電にも対応しています。


10BASE-T1Lが対応するトポロジー

10BASE-T1Lは、1対1通信をサポートしています。したがって、L2スイッチを用いることで、スター型およびツリー型のネットワークを構築可能です。

加えて、一部のベンダーでは、デュアルポートのデバイスを用いてデイジーチェーン接続を実現しています[3][4]。2つのPHYポートをもつデバイス間で1対1通信を行うことにより信号を中継し、経路途中にある機器が故障した場合には信号をバイパスすることで通信を維持しています。ただし、バイパス可能な台数と機器間の距離にはトレードオフの関係があるため、台数を増やすにつれて機器間の距離は短くなります。

また、10BASE-T1Lのバス接続(マルチドロップ接続)への対応について言及しているベンダーは存在せず(※)、SPE規格の中では10BASE-T1Sのみが対応しています。従って、既設のネットワークからの置き換えの観点では、配線形態の調査・確認が必要となります。
※2025年8月時点、Nessumアライアンス調べ


10BASE-T1Lによる既設線の活用

SPEの通信性能を満たすため、ケーブルの構成・構造に関する要件はIEC 61156シリーズ、コネクタの形状・インターフェースに関する要件はIEC 63171シリーズで定義されています。これらの規格に準拠したケーブルを使用することで、IEEE 802.3cgで定める10BASE-T1Lの仕様を満足する通信が可能となり、その性能も保証されます。

また、一部のベンダーにおいては、既設のツイストペアケーブルをそのまま活用できることについても言及しています[5]。ただし、条件付きであることを示唆している例もあるため、トポロジーの場合と同様に事前の調査や評価が必要となるかもしれません。




多様な配線環境に対応する柔軟性と信頼性―Nessum

Nessumとは

Nessumは、有線・無線・水中/海中などのあらゆる環境に対応した次世代のIP通信技術です[6]。技術仕様はIEEE 1901において定義されており、有線技術であるNessum WIREにおいては、数kmの距離で数Mbps~数十Mbpsの伝送が可能です(線種により変動)。さらに、最大1024台のデバイス接続に対応したマルチホップ技術により長距離・広範囲なネットワークを構築できます。


Nessumが対応するトポロジー

Nessumは、物理的な配線形態に依存しないトポロジーフリーな技術です。

産業用ネットワークにおいて一般的に使われている、スター型やツリー型、デイジーチェーン接続、さらにはバス接続(マルチドロップ接続)にも対応しているため、既設の配線形態を気にすることなく、Nessumを活用したネットワークへの置き換えが可能です。例えば、ビルオートメーション分野においてBACnet MS/TP(バス接続、デイジーチェーン接続)やLonWorks(フリートポロジー)などの非IPプロトコルを使用している場合においても、その物理配線を変更することなくIP化が可能となります。

Free Topology_Nessum.png

Nessumによる既設線の活用

Nessumでは、既設のツイストペア線、同軸線、電力線などのさまざまな線を、線種を問わずに活用することが可能です。ベストエフォート型の通信であり、その性能は伝送路環境に依存します。しかし、Nessumは元々、数ある有線通信環境の中でも特に劣悪な環境である電力線通信用の技術(旧HD-PLC)として開発されたため、その中で培った強固な耐ノイズ性能(誤り訂正、伝送路推定、複数チャネル化など)により、ロバストな通信を実現しています。





10BASE-T1L vs. Nessum―通信インフラ選定のための比較分析

10BASE-T1LとNessumは、どちらも1対(2線)のケーブルを伝送路とした産業用ネットワークのIP化に貢献する技術であり、それぞれ異なる特徴と強みを持っています。各技術の特性を理解し、用途に応じて適切なソリューションを選択することが重要です。

[10BASE-T1L]
  • 従来のEthernet通信からの長距離化(最大1,000m)
  • スター型配線に加え、デイジーチェーン接続に対応(デュアルポートデバイス使用時)
  • 規格に準拠したケーブルとコネクタによる通信性能の保証(既設線を再利用できる場合もあり)
  • 全二重通信によるリアルタイム性の向上
[Nessum]
  • マルチホップ技術による長距離化(数km~)
  • フリートポロジー(スター、デイジーチェーン、バス 他)に対応
  • 線種を問わず、さまざまな既設線を再利用可能(通信性能はベストエフォート)
  • 電力線通信で培った耐ノイズ技術によるロバスト性の向上

   Nessum WIRE 10BASE-T1L
Standard IEEE 1901 IEEE 802.3cg
Communication
Speed
Several to tens of Mbps(*)
(Best effort)
10 Mbps
(Guaranteed)
Communication
Distance
Several km(*)
(Max. x10 extension with multi-hop)
1,000 m
Connection Point-to-Multipoint
(Free Topology / 1,024 nodes)
Point-to-Point
(Star / Daisy chain with dual port devices)
Cable Any type of cable
(No new wiring)
SPE cable
(Existing cables may be reusable)
Transmission Half Duplex Full Duplex
(*) Depends on the type of cable and communication environment.




まとめ―現場環境に応じた最適技術の選定と導入戦略

10BASE-T1LとNessumは、いずれも産業用ネットワークのIP化を推進する有力な通信技術です。

10BASE-T1Lは、Ethernetベースの長距離通信が可能であり、規格に準拠した構成による通信性能の保証やリアルタイム性の確保を重視する場合に適しています。一方、Nessumは、トポロジーフリーかつ線種を問わない柔軟性に加え、電力線通信で培った高い耐ノイズ性能により、既設の環境を最大限に活用できる点が特長です。

今後、両技術のさらなる普及が進むことで、より多様な現場において最適な通信インフラの選択が可能になるでしょう。導入に際しては、現場の課題と技術の特性を照らし合わせ、最適なソリューションを選定することが、スマートインフラの構築に向けた第一歩となります。








参照

[1] 産業ネットワークのIP化を低コストで実現する技術─Single Pair EthernetとNessumの可能性 | Nessumアライアンス

[2] Technology | SPE Industrial Partner Network

[3] T1L-Ethernet-Technical Resource Guide | Honeywell

[4] ADIN2111 Datasheet and Product Info | Analog Devices

[5] How 10BASE-T1L Single-pair Ethernet Brings the Network Edge Closer with Fewer Cables | Texas Instruments

[6] Nessumとは? | Nessumアライアンス

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