【インタビュー前編】Wi-FiでもEthernetでもない、Nessumが取り組むIoT社会に残された「スキマ」とは

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川畑 直弘

B!

Wi-FiやBluetoothなどの通信技術が急速に普及しつつある現代のIoT社会。そのIoT社会の「スキマ」を埋めると言われる、新しい通信技術「Nessum」。本記事を通して、IoT社会の「スキマ」とは何なのか、Nessumという技術の核心はどこにあるのか、そしてNessumが社会をどう変えていくのか、Nessumアライアンスの副会長・松尾さんにお話をお聞きしました。


目次

通信技術の広がりと、Nessumの変遷の歴史

私たちの身の回りでは実に多様な通信技術が使われている。数ある通信手段の中で、Nessumは他の通信とどう違うのか、どのような場所・モノにアプローチしているのか。Nessumの事業開発・普及に取り組んでいる松尾さんとともに探ってゆく。




──本当に色々な通信技術がありますが、そのどれもが別々の特徴・役割を持っているのですね。

まず、人によって欲しい通信が違うということがあると思います。例えば携帯電話に使われるWi-Fiや5Gなどの移動体通信、またLANケーブルでおなじみのイーサネットなどの通信は、スピードが速くて遅延が少ない方が快適にコンテンツを見られますので、なるべく高速で高品質なものが求められますよね。一方で、建物の設備なんかを見てみると、空調や照明といった設備を動かすための制御の信号が建物内の配線を介してやりとりされているのですが、そういったデータを取得する際にはあまりスピードは求められません。むしろ沢山のセンサーを設置する分のコストを抑えるために、速度を抑えた安価な通信 (RS485など) の方が好まれることもあります。特に農業の分野などでは、LPWA (Low Power Wide Area) という遠くまで何kmも飛ぶような無線が望まれることもあるそうです。逆に、飛距離をなるべく抑えてスマホやイヤホンといった近くのデバイスのみをワイヤレスで繋ごうというのが、Bluetoothなどの通信技術になります。このように通信の種類は有線/無線のどちらも本当に沢山あって、用途によって活躍の場が異なっているのです。

※移動体通信...人や車などが、移動中でも通信ができるように広範囲をカバーして実現する通信ネットワークのこと



──その中でも特にWi-Fiが日常生活で果たす役割は、非常に大きいと実感します。

Wi-Fiがここまで普及するようになった大きな理由の一つには、Wi-Fi受信機能がパソコンの中に入ったということがあります。昔はノートパソコンを有線で繋いでいる時代がありました。インターネットを使うときはオフィスでもお店でも有線LANを挿せる場所がないか探しに行く、という具合に。でもやっぱり接続なしでもラップトップとして持ち運べるようにしたいですよね。そんなこともあって、最近ではオフィスでも無線LANが当たり前になってきましたし、Wi-Fiに対応したルーターが各家庭でも急速に普及しました。実は、Wi-Fiが当たり前のように使われるようになったという社会的背景は、Nessumが大きな転換点を迎えたきっかけとも密接に関連しています(後述)。



──「転換点」というと、以前はNessumという名前を使っていなかったということを聞きました。

はい、昔はNessumのことを「HD-PLC」と呼んでいました。「HD」という言葉は「High Definition」の略で、「画質が良い」という意味です。つまりHD-PLCとは、高画質な映像を伝送できるほどに高速な電力線搬送通信(Power Line Communication、 PLC)ということになります。この技術が生まれた2000年代は、テレビの画質も高画質なHD対応のものが次第に普及し始め、「HD」という言葉がテレビやカメラなど色々な業界で使われるようになった時代でした。電力線通信という技術自体は20–30年前からあったのですが、それまでは通信速度がとても遅くて適用可能な領域が限定されていました。そんな中、我々は高速で高画質な通信ができる、当時では画期的な技術を開発して「HD-PLC」と名付けたのです。
HD-PLCの良さは高画質だけではありません。今でこそテレビを媒体としてYouTubeやNetflixといった配信サービスを楽しむことが一般的になっていますが、テレビでインターネットを視聴するためには、テレビ本体を電力線とは別に通信線にも繋ぐ必要があります。そうすると大きな家に住んでいたり、テレビが複数あったりした場合に、2階の寝室にあるテレビまでどうやってLANケーブルを繋いでいくかという新しい問題が浮上してきたのです。HD-PLCは電力線通信ですので、LANケーブルをわざわざ2階にまで引き回さずとも既存の電力線のみでインターネットに繋げられて非常に便利だということで、当時は多くの方に利用していただいていました。

※電力線通信...Power Line Communication、PLCとも言われ、家や建物の電気配線をそのままインターネットや情報通信にも使えるようにする技術のこと



──もともとは家庭用の製品だったのですね。それに対して現在のNessumのサービスは、どちらかというと業務用だったり、企業向けのものが大部分を占めていますよね。

そうですね。HD-PLCを売り出していた一方、無線ではWi-Fiが家庭用市場に急速に進出しつつありました。家電製品で使う通信として、有線 (LANやHD-PLCなど) と無線のどちらがふさわしいのか?という論争も最初はあったのですが、やはりテレビやPC、スマートフォンなどへのWi-Fiの普及の勢いは止まらず、今では生活に欠かせない最も重要なインフラとなりました。対してHD-PLCはというと、Wi-Fiが逆に届きづらい環境、例えばコンクリートでできた3階建てのお家など、限られた場面で活用するのみにとどまることになりました。そうしたお客様にはたくさんの感謝のお言葉をいただいていたのですが、やはりWi-Fiが一般的に普及したこともあって、やむなく家庭用向けの事業から撤退された企業もございました。
その後、色々な技術の進化があったり、他に使う用途がないかという探索の期間を経たりして、今はB2Bの方で普及を進めています。家庭用からシフトするのはなかなか簡単なことではありませんでしたが、業務用や産業用といった新たな市場に活路を見出して、HD-PLCあらため「Nessum」は今も着実に歩みを進めています。



家庭用からの転地と技術進化で見つかった新領域

──B2B向けのサービスを目指す中で新たに見えてきた可能性というか、突破口のようなものは何だったのでしょうか。

HD-PLCは家庭向け以外への展開が必要ということになってから、色々なお客様からお話を聞いて、他の使い道や技術的に進化させるべきポイントが見えてきました。中でも一番大きかった気づきは、「スピードよりも距離を重視して、安定した有線通信を使いたい」というニーズの大きさでした。お客様のお話を聞いていくと、例えば中・大規模ビルの中での通信環境構築に使ってみたいとか、スマートメーターに使ってみたいなど、どうも私たちが最初は思いつかなかった別のニーズがあるということが分かりました。
もともと、Wi-Fiなどの無線は屋外や大空間で有利な一方で、遮蔽物を介した通信に対しては不向きで、ビル内の通信では有線と組み合わせて用いることが多いです。一方、イーサネットをはじめとする有線は安定して品質にすぐれている代わりに、長距離の配線には施工コストが多くかかってしまうことが難点でした。安定した有線通信で、かつ長距離でもコストを低く抑えられる。そのようなバランスを取ることのできる手法は当時ほとんどなく、依然として通信技術にとっての「スキマ」となっていたのでした。
HD-PLCであればそうした「スキマ」を埋められる。そう確信した私たちは、もともと長距離通信には不向きであったHD-PLCを改良して、ビルや工場、街のエリア一帯など、より長距離でも問題なく使えるよう技術開発を重ねていきました。
開発の過程では、「マルチホップ」と呼ばれる、異なる端末どうしを中継ポイントとして接続できる技術も長距離化のカギになりました。これまで、通信経路の途中に分電盤がある環境では、速度が低下したり繋がらなくなったりしていたのですが、この技術により、分電盤に中継用の端末を設置することで安定した通信が可能となりました。

※スマートメーター...電気やガス、水道などの使用量をデジタルで記録し、電力会社や消費者などに自動的に送信できる計測器のこと



──そうした経緯を経て生まれ変わったNessumこそが、まだ埋められていない通信技術の「スキマ」を埋めるのですね。

ここ10年で通信はさらに進化して、6Gをはじめとする今までにない高性能な技術が生まれてくると思います。それらが便利なのは間違いないのですが、どんな通信技術にも長所や短所、それだけではカバーできない領域が必ず存在します。Nessumはそうした「スキマ」を埋めていく補完的な役割を果たしていくことで、主流の通信技術とはまた違うプロセスで、社会全体としてIoT化に貢献していきたいなと考えています。



多くの通信技術が解決できなかった通信技術の「スキマ」を埋めるカギとなるNessumの技術。後編ではNessumが活躍する具体的なシーンに光を当て、その活用可能性を探索していきます。





Profile


松尾浩太郞(まつお・こうたろう)
大分市出身。2007年にパナソニックコミュニケーションズ(株)に入社し、電力線通信、どこでもドアホンなどのソフト開発に従事。2020年よりパナソニックホールディングス(株)にて、あらゆるモノがネットワークにつながるIoT社会を実現すべく、国際標準規格 IEEE 1901準拠の通信技術Nessum(ネッサム)の普及および事業化を担当。2023年より同技術のグローバルな普及/規格化/互換認証を行う団体「Nessumアライアンス」の副会長も務める。


森原正希(もりはら・まさき)
東京生まれ、早稲田大学建築学科卒。大学在学中には国際的なNPO法人での活動やXRスタートアップ、建築設計事務所など建築を起点に領域横断する活動経験を経て、建築都市分野にアントレプレナーシップを育む一般社団法人ASIBAを共同創業。また早稲田大学にて研究業務を担当。WIRED Creative Hack Award 特別賞、グッドデザインニューホープ賞、緑の環境プラン大賞などのクリエイティブアワード等を受賞。


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