スマートグリッド通信の未来を支える選択肢─次世代PLC技術「Nessum WIRE」の可能性

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川畑 直弘

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スマートグリッド分野における通信インフラの転換点


脱炭素化を背景とした再生可能エネルギーの普及に伴い、GX・DXの推進基盤としてスマートメーターやAMI(Advanced Metering Infrastructure)の導入が進んでいます。その構成要素の一つである通信インフラは、技術的要素の一つに留まらず、運用効率・収益向上・持続可能性の観点からも重要な役割を担っています。

これまでのスマートグリッド通信には、電力線通信(PLC)技術の一つであるNarrowband PLC(NB-PLC)、およびセルラー系(4G/LTE)やサブGHz帯の無線通信技術が活用されてきました。しかし、これらの技術には通信性能やコスト、技術の持続性などの点で異なる課題があり、新たな通信基盤への移行を検討する企業が増えてきています。このような状況下において、次世代のBroadband PLC技術として注目を集めているのが、「Nessum WIRE」です

本記事では、PLCおよび、その次世代技術であるNessum WIREに焦点を当て、インドや欧州の導入事例を通じて実用性と課題解決力を検証します。さらに、Nessum WIREの技術的優位性や他の通信方式との比較を通じて、柔軟かつコスト効率の良い通信基盤としての可能性を明らかにし、スマートメーターやAMIのみならず、EV充電、再生可能エネルギー統合などの多用途への展開を視野に、企業が中長期的な戦略を構築する上での指針を提供します。

注:本記事の内容は、欧州およびインドの事例をもとに記載されております。日本国内での電力線利用については、高速電力線通信推進協議会(PLC-J)の定めるPLC運用ガイドラインを参照ください。




インドの事例が示すPLCの実用性と課題

2025年2月、インドにおけるPLCの導入と活用に関する実証実験、導入事例、課題、そして今後の展望についてまとめられたホワイトペーパーが、IEEEのIndustry Connections Working Group[1]によって発行されました

これまでインドにおけるスマートメーターやAMIには、4Gをベースとしたセルラー通信が導入されてきました。しかし、通信事業者の4Gネットワーク維持に関する方針や技術の世代交代(4Gから5Gへ)によって、数年以内に通信不能となり、ネットワーク再構築への追加投資が必要となるリスクを抱えています。さらには、山間部や農村部などの4Gネットワークがカバーされていない地域への導入も困難です。

このような状況下において、PLCの再評価と活用可能性を探る目的で本章冒頭のホワイトペーパーが発行されました。この文書の中では、Tripura州電力公社(TSECL)[2]が約43,000台のスマートメーターをPLCで接続し、検針コストの削減、収益の最大化、盗電の抑止などの効果を得られた事例が紹介されています。また、CPRI(中央電力研究所)[3]が実施したNB-PLC活用によるAMR(自動検針)の実証においても、通信事業者に依存しない通信手段として有効であるとの見解が示されています。

これらの事例は、PLCが既存の電力線インフラを活用した実用的な通信技術であることを示しています。ただし、従来のPLCには周辺機器からのノイズへの耐性や通信帯域(通信速度)の制限、セキュリティ面の懸念といった課題もあり、より高度な次世代技術への移行が求められています。




欧州事例に学ぶ―Nessum WIREがスマートグリッドの課題をどう解決するか

この章では、欧州の事例を紹介しながら次世代PLC技術「Nessum WIRE」の有効性について述べます。

Power Plus Communications(PPC)社[4]

ドイツでは、スマートメーター展開の初期にLTE(4G)通信が採用されましたが、地下に設置したメーターへの電波の不達、通信事業者への依存、SIM運用コストの増加といった課題が顕在化しました。

[出典] Nuremberg relies on BPL for its Smart Meter rollout


これに対し、PPC社はIEEE 1901-2010準拠のBroadband PLC(BPL)技術を活用し、既設の低圧電力網を通信インフラとして再定義することでこれらの課題を解決しました。PPC社による試算では、スマートメーターゲートウェイ(SMGW)の設置台数が増えるほど、BPLの方がLTEよりもコスト効率が高くなるという結果も出ています。

その後、IEEE 1901-2020準拠のNessum WIREを採用し、帯域幅の柔軟な変更とマルチホップ機能の組み合わせにより、BPLの弱みである通信距離の課題も克服しました。最大1,000台以上の多台数接続と合わせて、最も将来性のあるスマートグリッド向けBPL技術として評価を高めています。



GE Vernova社[5]

GE Vernova社も、自社の通信プラットホームであるMDS™ Orbit PowerNetにおいてNessum WIREを採用しています。MV(Medium Voltage)/LV(Low Voltage)の配電網を活用し、従来のNB-PLCでは対応できなかった高速通信を可能とすることで、高度なAMIやSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)に対応しました。

[出典] Critical Infrastructure Communication - Nessum Europe Day on Nov. 2024


特にセルラー通信(4G/LTE)が主流となっている地域においては、セルラー網とBPLを組み合わせることで、カバーエリアの補完とフェイルオーバー機能を兼ね備えた、可用性/冗長性の高いネットワークを構築することが可能となっています。



異なるベンダー間の相互接続性

加えて、この両社は2025年3月に共同デモを行っており、異なるチップセット間でも相互接続性が確保されていることを発表しています。Nessum WIREは複数のチップベンダーからの供給が可能であり、特定ベンダーへの依存を避けることで、調達リスクの低減と安定供給を実現しています。これは、ユーティリティ企業が長期的な通信インフラ戦略を構築する上で、非常に重要な要素となります。このデモの結果は、Nessum WIREが柔軟なネットワーク拡張を可能にし、実運用における信頼性と将来性を大きく高めるものとなっています。

[出典] GE Vernova and PPC demonstrate successful interoperability for broadband communications in power grids




Nessum WIREのコア技術と競争優位性

Nessum WIREは、既設の配線をそのまま活用し、BPL技術でありながら長距離・広範囲なネットワークを構築可能な次世代の有線通信技術です[6][7]

本技術では伝送路の特性に合わせ、低周波数帯域に信号のエネルギーを集約することで通信の長距離化を実現しています。さらに、Masterあたり最大1,024台のデバイス接続と、最大10ホップの自動中継技術により大規模ネットワークを構築可能です。独自の信号処理技術を使った柔軟な帯域幅の変更により、NB-PLCよりも高速な通信速度(数Mbps~数十Mbps)を維持しつつ、他のBPLよりも長距離通信(数km~数十km)が可能となっています。

さらには、強固な誤り訂正や伝送路推定技術によるノイズ耐性の向上や、AES128bit暗号化やIEEE 802.1X認証への対応によるセキュリティの高度化など、Nessum WIREの技術は常に進化を続けています。

他のPLC技術との違いについては、こちらの記事を参照してください。




Nessum WIREで築く未来志向のスマートグリッド

スマートグリッドの新たな通信基盤として、Nessum WIREが有力な選択肢の一つであることは間違いありません。

企業はこれらの要素を踏まえて中長期的な戦略を練る必要があり、Nessum WIREは、既存インフラを最大限に活用しながら、将来のスマートシティや分散型エネルギー社会に対応できる柔軟性を備えています。特に、高速化と長距離化のバランスやロバスト性の向上、高セキュリティといった機能は、今後の電力網のデジタル化において不可欠な要素です。

今こそ、持続可能で柔軟な通信基盤への移行を検討する時です。Nessum WIREは、その第一歩となる可能性を秘めています。








参照

[1] Establishment of Power Line Communication (PLC) Test Beds in India | IEEE SA

[2] Official Website | Tripura State Electricity Corporation Limited

[3] Home | CPRI

[4] Power Plus Communications AG | Power Plus Communications AG

[5] GE Vernova | The Energy of Change

[6] Nessumの技術概要 | Nessumアライアンス

[7] Nessumの最新技術 | Nessumアライアンス

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