産業ネットワークのIP化を低コストで実現する技術─Single Pair EthernetとNessumの可能性
現代の産業界において、コスト効率の高いIPネットワークソリューションの重要性はますます高まっています...
川畑 直弘
貴社の事業を支える根幹のネットワークインフラは、サイバーセキュリティの脅威に対し、万全の体制を築けているでしょうか?多くの企業が依然として抱えるレガシーなネットワークインフラは、現代の高度化・巧妙化するサイバー攻撃に対し、脆弱性を露呈している可能性があります。ひとたびセキュリティインシデントが発生すれば、事業の停止、機密情報の漏洩、そして企業価値の著しい毀損といった壊滅的な影響が避けられないのが現状です。
この喫緊の課題に対し、欧州ではサイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act: CRA)が2024年12月に施行されました。この法律は、デジタル製品を提供する企業に対し、製品のライフサイクル全体にわたるサイバーセキュリティ要件を義務付けるものであり、2027年12月から全面的に適用されます。この要件を満たせない場合、企業は巨額の罰金に加え、欧州市場からの事実上の締め出しという、ビジネスにとって極めて重大な制裁を受けることになります。これはもはや、経営戦略上の重要課題です。
本記事では、この課題を克服する画期的な通信技術「Nessum」をご紹介します。Nessumは、既存のレガシーシステムを抱える企業が直面するサイバーセキュリティの課題を根本から解決し、欧州サイバーレジリエンス法への対応を可能にするだけでなく、将来的なビジネス展開においても強固な基盤を築くポテンシャルを秘めています。Nessumがもたらす具体的なメリットと、その技術的側面について詳しく解説していきます。
Nessumは、既存のレガシーネットワークインフラを活用してIP通信を可能にする、革新的な通信技術です。ツイストペア線、同軸線、電力線などの既設の配線を、線種を問わずに通信用の線へアップグレードが可能であり、配線の形態にも限定されないトポロジーフリーな技術として、低コストでのネットワーク構築に貢献できます。技術仕様は国際標準規格IEEE 1901として規格化されています。
Nessumの主な特長は以下になります。
欧州サイバーレジリエンス法では、IoT機器を含むデジタル製品に対して以下の要件を求めています。
※各要件の詳細は、欧州連合の定める公式文書を参照下さい。
通信ネットワークの観点から、これらの要件を満たす上で重要なことは、伝送される情報を高いセキュリティで保護しつつ、脆弱性が発見された場合においても、セキュリティアップデートを迅速かつ確実に提供することになります。そして、Nessumはこの要件に合致するだけでなく、コストを抑えながら円滑に法規制への対応を進めることができる技術です。
産業用ネットワークのフィールドレベルにおいては、RS485やメーカー独自のプロトコルによるレガシーかつ非IPの通信方式が未だに多くの現場で使用されています。これらのネットワークは、最新のセキュリティ要件を考慮して設計されていないため、潜在的な脆弱性が生じ、サイバー脅威の入り口となる可能性があります。また、最新のITシステムとシームレスに結合し、遠隔から機器の状態監視やセキュリティアップデートを効率的に行う観点からも、ネットワークのIP化は不可欠と言えます。
HMSネットワーク社の調査によると、産業用ネットワークにおける新規接続ノードの71%がEthernetで接続されています(フィールドバスが22%、無線が7%)。ネットワークのIP化と聞いてあなたが真っ先に思い付く手段は、既存のネットワークをEthernetで再構築することではないでしょうか。しかし、この方法にはいくつかのデメリットがあることを知っていますか?「新規配線のコスト」、「100m毎にHUBの設置が必要」など、見過ごすことのできない課題があなたを悩ませます。これらの課題を克服し、IPネットワークのメリットを最大限に活用することが重要です。
Nessumは、これらの課題を解決する手段を提供できます。線種や配線形態に制限されることなく、既設配線を活用できるため、新規配線のコストを抑えながら高速化・IP化を実現します。伝送速度は、伝送距離数kmで数Mbps~数十Mbpsを可能とし、Masterあたり最大1024台のデバイス接続とマルチホップによる自動中継技術で大規模ネットワークを構築可能です。さらには、伝送データの暗号化(AES128bit)や、トーンマップと呼ばれるOFDMサブキャリア毎の変調パターンを送受信機器間で共有することによる第三者の侵入防止、IEEE 802.1Xへの対応など、セキュアな通信技術としても高い実力を持っています。
また、Nessumの他にもSingle Pair Ethernet (SPE)が従来のEthernetの代替ソリューションとして知られていることをご存じかもしれません。両技術の違いについてはこちらの記事を参照ください。
欧州サイバーレジリエンス法が施行され、その全面的な適用が迫る中、高セキュリティなIPネットワーク構築への関心が急速に高まっています。企業が最新のサイバーセキュリティ基準への対応を求められる中、もはや「移行すべきかどうか」ではなく、「どのように移行するか」が焦点となっています。
そこでNessumの出番です。
Nessumは、レガシーなネットワークインフラのIP化において、セキュアかつコスト効率の良いソリューションを提供します。Nessumを導入することで、貴社の競争力は格段に向上し、未来のビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。
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